よこみち珍道中 三峰山編 第3話 遥かなる登山口 後編

朝晩は冷え込むようになりましたね。
シンセキのみなさんも、風邪など召さぬよう、お互い気を付けて年末を乗り切りましょう。



凡才とは、99%の怠慢と、1%のヒラキナオリ。
よこみちです。



さて。
読者の存在を想定していない、ごく個人的回顧録
よこみち珍道中、東吉野の三峰山編第3話。



はじまりはじまり。






ガイドブックには、駐車場から500mほど引き返したところに登山口の看板がある、と書かれていて。



そんなんあったかな?
と軽く首を傾げながらも、確か第2駐車場のあたりに橋があったな、と車で来た道を徒歩で引き返してゆくよこみちとmark-na。



小さな橋が見えてくる。



看板は、と。



橋の手前のガードレールの上に、A4サイズくらいの小さな看板。
白地に青のステンシルで、



『みつえ青少年旅行村
  三峰山 登山口
 ======= 』



と書かれている。






おぉ、ここだな。



登山口の案内にしては、すぐに見落としてしまいそうな、いかにも頼りなげな看板。



その橋を渡った先の道には、お姉さんが犬の散歩中。
登山道で犬の散歩?
まさかね。



橋の手前に、今来た道から折り返すような角度で川沿いの道が続いている。



コンパスを取り出すmark-na。



「方角はこっち」



犬の散歩のお姉さんとは反対の方を指差すmark-na。
そりゃそうだ。



橋は渡らず、川沿いを歩き始めるよこみちとmark-na。
川の水はこれ以上ないくらい透き通り、藻ひとつ生えていない川床を滑るように流れていく。



しかし、登山口の看板があれだけ、てのは、何とも不案内。
橋を渡るのかどうかもはっきりしないし。
先が思いやられるね。



畑と川の間の道をしばらく行くと、道は杉林の山に入っていく。



とそこに、大きな材木用のトラックが停まっていて、今まさに材木を積み込んでいる最中だった。



トラックに付いたクレーンを操作して、材木をつみこむおっちゃん。



脇を通り抜けようにも、おっちゃんの手つきが危なげな気がしたので、おとなしく見守るよこみちとmark-na。



みー、みー、がごん。



ようやく吊り下げられた木材がトラックの荷台に納まるのを見届け、mark-naが声をかける。



「すいません、三峰山はコッチで合ってます?」



「…あー、わからんなぁ。
ワシこっちの人間ちゃうねん」



何となく腑に落ちないものを感じながらも、ひとまず礼を述べてさらに奥へ進むよこみちとmark-na。



別荘のような家を横目で見ながら、道はまだ奥へと続いている。



アスファルト舗装は終わり、大きなトラックの轍がはっきりついている未舗装の道になっている。
道の両側と、タイヤの通らない道の真ん中の部分に草が茂っている。
どうも、登山道という雰囲気じゃない。



ねぇ、何かおかしくない?



「…んー、ちょっと待ってな」



コンパスを取り出し、地図と見比べるmark-na。



「あれ?
やっぱりちょっと方角ちがうな」



道はまだ森の奥へ奥へと続いているものの、草の丈は高さを増し、平行して草の生えていないトラックの轍を際立たせている。



「おかしいな。
5分くらいで滝ルートとの分岐があるはずやし…」



5分以上は歩いてるな。



やっぱりあの、犬の散歩のお姉さんの方の道やったんちゃう?
ほら、地図やと川わたってたやん。



「そうやな、それかあのトラックの後ろに隠れて、登山道があったんかもしれん」



ほな、一旦戻ろか。



来た道を引き返すよこみちとmark-na。



言われてみれば、別荘みたいな建物も、空き地みたいな駐車場も、林業の会社の私有地っぽい感じが強い。



トラックはもういなくなっていたけど、その向こうには登山道はなく。



最初の橋まで戻ってきたふたり。



「いやでも、登山道で犬の散歩て、おかしない?」


んー、まあ、ちょっといってすぐ戻るんちゃう?



「軽装やったしなぁ」



お姉さんは何も悪くないのに、お姉さんにだまされたような気分のふたり。
橋を渡り、しばらく歩くと。



道の脇には民家と畑が続き、どうも山に行く気配はない。



あれ?



この道も何かおかしない?



「せやんなぁ、方角もおかしいし」



立ち止まり、地図とコンパスを取り出すmark-na。



んー、どこで間違ったんやろか。



駐車場から少し戻って…。



地図とにらめっこの、頼りない三十路男子ふたり。



あ。



この、地図に書いてある【ゲート】ってもしかして。



あの、【いでよ】のアーチのことなんじゃないか?



あのアーチの奥に、ホンマの駐車場があったんちゃう?



「それや!
そういえばあの駐車場、急ごしらえな感じやったもんな」



なんてこった。
車を停める時点ですでに間違ってたのか。



「じゃあ、あのちっちゃい『登山口』の看板はなんやったんやろ?」



よこみちのアタマのなかに、ある仮説が浮かんだ。



あの看板の3行目。
一見意味のなさそうな、
『======』
の記号の連続。



あれはもしかして。



急ぎ足で引き返し、橋を渡って、くだんの看板を確認するよこみち。



…やっぱり。



よく目を凝らしてみると、『======』の右端にうっすらと、別の青いインクで描かれたであろう、三角形の痕跡。



つまり。



『みつえ青少年旅行村
  三峰山 登山口
 ======= 』
ではなく。



『みつえ青少年旅行村
  三峰山 登山口
 =======> 』






なあぁっ!
矢印かよ!!



ガイドブックにあった、辻ごとに案内の看板、てのに使うために、ステンシルでいっぱい作って、最後に矢印だけ描き足したんだろうけど。
その三角だけ別のインクで描いたから、先に三角だけが劣化して消えちゃったわけだね。



時刻はすでに10時半。
登山開始予定時間より1時間が経過していた。



つづぐ!