伊吹山ヒルクライム顛末記 遥かなるゴールライン

どぅーもどぅーも。
みなさん、お変わりないでしょうか?
先日、メールの作成中にカミさんが話し掛けてきたのに、メールの方に気をとられてあいまいな相づちを打ってたら。
カミさんがケータイに噛み付き、



ぴき



情けない音がして、アンテナ表示があり得ない位置に1本増えました。
バリ4です。



次の日には妙な形のアイコンになって、そのうち消えました。



カワリバエのしない永遠の凡人、よこみちです。



そろそろ忘れられている頃でしょう。
伊吹山ヒルクライム顛末記、いよいよゴールです。



自転車で17kmの坂道を登り続ける、伊吹山ヒルクライム
シロートにうぶ毛が生えた程度のよこみちは、それでもまだ一度も地面に足をつくことなく頑張っていた。



残りはあと2km。
つりそうになる大腿筋。



なんとか、あと少し。



立ちこぎをしようとすると、太ももの前面が硬直、あわてて態勢を戻すよこみち。



もう、つりそう、と言うより、軽くつってる。



あとちょっとなんだけど。



また少し下り坂がある。
勢いをつける余裕もなく、束の間の休息をとる。
残りは1kmくらいだろうか。



見晴らしは良く、山の稜線のすぐ下を、へびが這うようにうねうねと道がへばりついていて。
それが、向こうの尾根に消える手前あたりで少し膨らんで、建物が建ってるのが小さく見える。



たぶん、あれがゴールなんだろう。
風にのって、遠く歓声が聞こえる。



もうちょっと。



はやる気持ちとは裏腹に、今にもつりそうな足をだましだまし動かす。



どこからそんな体力が出てくるのか、ラストスパートをかける後続車たちが、次々とよこみちを追い抜いていく。



あと、ひと踏ん張り。



ペダルを踏みしめる。



時間の流れが減速し、スローモーになってゆく。
音も遠ざかり。



びきり



ついによこみちの大腿筋は、過度の労働に対してストライキを起こし。



転がり落ちるように自転車から降りるよこみち。



今にも止まりそうだった時間の流れは、何事もなかったように平然と流れはじめる。
急に、まわりの音が聞こえだす。



両足を投げ出し、倒れた自転車の横で動けないでいるよこみち。



太ももとふくらはぎ、内もも、およそ足の筋肉という筋肉が硬直。
どこをどうやって伸ばせば良いかわからない。



山側で路肩もなく、後続車の邪魔になりながらも、どうして良いかわからずただ足の痛みがおさまるのを待つ。



残りはおよそ500m。



ゴール地点はここからは見えないけど、はっきりと歓声が聞こえる。



行かなきゃ。



なんとか自転車を支えに立ち上がり、ゆっくりと前に歩きだす。



一歩ごとに痛みが走り、つっぱった筋肉は思うように動いてくれない。



もう少し。



自転車に体重をあずけて、痛みに耐えながら、一歩、また一歩。



うるさいほどの風の音。



一歩。



足元に、誰かの悪戯みたいな残雪。



一歩。



大きなカーブを曲がって。



アスファルトを睨みながら。



びきり



筋肉の硬直の、大きな波がまたやってきて思わず立ち止まるよこみち。



立っているのがやっと。



今座り込んでしまえば、もう立ち上がることは出来ない。



ただひたすら、痛みの波がすぎるのを待って立ちすくむ。



歓声が近い。



ふと顔を上げると、すぐ目の前に、沿道で応援してくれている人たちが。



「頑張れー!」



「あと少し!」



路肩の小さな看板には、ゴールまで50mの表示。



後続車は、ゴール直前で立ちすくむよこみちには目もくれず、ただ最後の力を振り絞って通りすぎていく。



「頑張って!」




自分もその声援を受けているうちの一人だ、と気付き。
恥ずかしいような、ありがたいような、申し訳ないような。



歩かなきゃ。



歯を食いしばり、およそ今までの人生の中でいちばん長い50mを歩きだす。



ひときわ大きくなる歓声。



「ガンバれぇっ!」



「もうちょっと!」



足の痛みはおさまらない。
でも、立ち止まる訳にはいかない。



ゴールラインが見える。



「よこみち!」



聞き覚えのある声。
mark-naだ。



よこみちの横に駆け寄ってきて。



「頑張れ、あと少し!」



もうゴールラインは目の前。



もう一歩。



ゴールラインを。



もう一歩。



通過する。



終わった。



そう思ったとたん、再び襲ってくる痛みの波。



自転車をmark-naにまかせ、倒れるように座り込むよこみち。



終わったんだ。



達成感と、悔しさと、安堵と。



いやぁ、残り500mで足がつっちゃって。



照れながら言い訳をかますよこみち。



「いやいや、映画のワンシーンみたいで、良かったよ」



火照ったよこみちの頬に、山頂の風は冷たく心地好かった。