伊吹山ヒルクライム、出走
どぅーもどぅーも。
アタリでもハズレでもない、ビックリマンシールで言うところのお守りシール。
平々凡々、よこみちです。
まるで異世界、伊吹山ヒルクライムの自転車とマッチョの森に迷い込んだよこみち。
少し遅れながらも、なんとかスタート。
「じゃ、ゴールで」
快調に走りだすmark-na。
思ったより傾斜はキツい。
すぐに見えなくなるmark-na。
一緒にスタートした20台ほどの選手たちも、ぐんぐんと坂道をのぼっていく。
こりゃだめだ。
まるで勝負になんない。
すぐ後ろからは、よこみちたちの数分後にスタートした20台の選手たちが近づき、これもまたあっという間によこみちを追い越してゆく。
その後ろ姿を、早くも息のあがったよこみちが見送る。
また後ろの集団が近づく。
負けじと必死にペダルをこぐよこみちの努力も虚しく、まるで幼児のこぐ三輪車でも追い越すかのように、たやすく通過してゆくマッチョたち。
だめだ、次元が違いすぎる。
実力のあまりの違いに打ちのめされて、ふと脳裏をよぎるリタイアの4文字。
はっ。
違う違う。
他の選手との勝ち負けじゃなく、弱音と言い訳ばかりの自分に打ち克つことが目的だったはず。
ようし、あくまでマイペースに行こう。
そう割り切って、地道に坂を登ってゆくよこみち。
前方に、よこみちよりも低速の自転車がみえた。
ゆっくりと坂を登っていく自転車に対して、不釣り合いなほどしゃかしゃかとペダルを回す選手。
よく見ると、ドロップハンドルじゃないし、タイヤが太い。
MTBだ。
へぇ、MTBにはあんなに軽いギアがあるんだ、と少し羨ましがりながら重いペダルを踏みしめるよこみち。
もうだいぶ時間が経ったように思われて、何百メートルかおきに路肩にいるスタッフに訊ねてみた。
今、何キロくらいですか?
スタッフのジャンパーに身を包んだおっちゃんが、優しげに答えてくれた。
「まだ2kmだよ!」
に、2キロぉ?!
聞くんじゃなかった。
そうこうしてる間も、引っきりなしに追い越してゆく後続の選手たち。
見れば、ゼッケンが100番くらい違う。
負けず嫌いのムシが騒ぎだすのを押さえて、路肩に寄ってやりすごす。
まだ、先は長い。
傾斜が緩やかな所では、水分補給やふくらはぎをのばしたりと軽くストレッチ。
今のところ特にカラダに異状はない。
黙々とペダルを漕ぎ続ける。
ところどころ、アスファルトを剥がして補修中の路面がある。
小石を踏ん付けないように気を付けながら、ゆっくり、ゆっくりと登っていく。
もう、後続に抜かれるのも気にならなくなってきて。
ただそこには、山と、自転車と、自分があるだけ。
突然、風が冷たくなる。
ふと顔を上げると、いつのまにこんなに高く登ったのか、町並みが小さく見える。
まだ、頑張れる。
400くらい違うゼッケン番号が追い越して行くなか、不思議とすがすがしいような、誇らしいような、そんな気分に包まれるよこみちであった。
つづく。