よこみち珍道中 剣尾山編 最終話 エンドクレジットとトレイルラン

どうも。
まだ年賀状に着手していないよこみちです。



年賀状だけの付き合いになって久しい方も多いので、何かしら今年一年の成果みたいなものを年賀状に込めて送りたいな、と毎年思うのですが、なにぶん日常に追われるばかりで自身の成長は止まってるようなもの。
かといってありきたりな出来合いのデザインを使うのも変にプライドが許さなかったり。
結局なんだか中途半端な年賀状を毎年発送するはめになってます。



…今年もまた同じ轍を踏むのでしょう。



さてさて、それはそうとコレくらいは年内に終わらせておきましょう。
三十路男子の、若干見苦しい冒険譚剣尾山編、いよいよ最終回です。






撤退を決意し、道を引き返してみたものの、もはや来た道がわからない。



…まずいな。



いつのまにか日も翳りはじめ、よこみちたちの足元は急速に明るさを失いはじめる。



斜面を等高に移動していたけど、その道無き道すら歩行が困難になった。



これ以上はあぶない。



「直登して尾根に戻ろう」



と言うが早いか、mark-naは斜面を登りはじめた。



ここで足を滑らせて負傷でもしたら。
誰も通りかからないし、携帯の電波も届かない。



ふたりが同時に滑落すれば、こんな他愛もない低山で遭難して命を落とすこともありうるのか。



また背筋に寒さを覚えたよこみちは、もしmark-naが滑落しても巻き添えをくわないように、少し位置をずらしてmark-naのあとをついていった。



…考えすぎかな。



そんな小さな気遣いは幸い役に立つこともなく、あっさりと尾根に戻ったふたり。



…なんだ、こんなに簡単に戻れるじゃないか。



…いや、違う。



正規ルートからほんの少しずれただけで命の危険すらある、ってことなんだ。



標高が低いからとあなどらず、常に気を配ってこそ楽しめる遊びなのか。



低山の山歩きに対しての認識を改めたよこみち。



今度は、来た道をできるだけ早く、怪我しないように帰らなくてはならない。



「トレイルランのつもりで行くで」



モックタイプの軽い靴を履いたmark-naが言う。



ミドルカットの登山靴を履いたよこみちが頷く。



…良いな、その靴。



ざざざざ



軽いフットワークで枯葉を蹴散らしながら進むふたり。



階段にさしかかってもペースを落とさず。



とととと



狭い歩幅の階段を勢い良く駆けおりる。



…何かに似てるな、これ。



階段、といっても、山道によくある細い丸太が等間隔に並んでいるような階段。



とととと



それを丁寧に一段ずつ、太ももを少し揚げ気味でリズミカルに駆けおりていく。



とととと



…あ!



高校のサッカー部のアレ。



ハシゴを地面に倒して、その段のあいだを小走りするあの練習。



そうそう、こんな動きしてたよね。



などと、必要のない記憶を甦らせている隙に、あっという間に剣尾山山頂まで戻ったふたり。



昼食時にずっと吹き付けていた冷たい風は凪んで、のどかな昼下がりを思わせる暖かい光に満ちていた。



あぁ、それにしても見晴らしが良いな、ここは。



「ほら、これ」



mark-naが、何かを持った手をよこみちのほうに突きだしている。



みかんだ。



まだこんな隠し玉を持ってたのか。



みかんはひんやりと冷たく、ノドの渇きと疲れを癒してくれた。



「よし、行くか」



おう。



剣尾山山頂をあとにして、急ぎ足で下っていくふたり。



廃寺院跡を通りすぎ、快調に駆けおりる。



ものすごい勢いで、六地蔵前まで到着。



あれ?
こんなに近かったっけ?



くだりだし写真撮らないし小走りだし、登りの時とは比べものにならない勢いで進むふたり。



コレなら保育所のお迎えにも間に合うんじゃなかろうか。



あかんあかん、くだりで欲を出すと足を取られる。



一歩一歩確実に。



ざ、ざ、ざ、ざ



早くも、ロッククライミングのできる岩まで戻ってきた。



何だか、午前中に通過した岩や風景が、早送りで流れていくような。



映画のスタッフロールの後ろで流れるダイジェスト映像みたいに。



ああ、こんなんあったなぁ。



なんて横目でみながら。



達磨岩も通過。



ざ、ざ、ざ、ざ



壁面の如来さまに軽く手を合わせて。



ざ、ざ、ざ、ざ



ついに登山口まで帰り着いたふたり。



時刻は4時半。



やった。
なんとか無事に帰ってきたぞ。



今回も反省すべき点は多々あったものの、それはともかく車に乗り込み、帰途につくふたりであった。



剣尾山編 完