禁断のルート
ちょうど半月くらいの月齢だったので、望遠鏡を出してきてイチヒメとニタローにクレーターを見せてみました。
「イチヒメ知ってんで〜。
ウサギさんおるんやでぇ」
ん、そうやなぁ。
ほな見てみよか。
「めっちゃブツブツやん。
ウサギさんおらへんし」
あら、かえって夢を壊しちゃったかな?
でもよこみちは綺麗なクレーターが見れて満足。
向かいの家の屋根に月が隠れてしまうまで、使いこなせてない赤道儀をかえって邪魔に思いつつ、ずっと観察してました。
さて、よこみちの富士山脱出劇、今日もしばしお付き合いの程を。
歩き続けていたよこみちとmark-naの前に、分岐点がみえる。
小さな標識には、大砂走りの文字が。
顔を見合わすよこみちとmark-na。
…いやいやいや。
昨日滑落者が出て、通ったらアカンて言われたやん。
いやでもこっち行ったらめっちゃ早いで。
いやいや、誰か警備の人が見張ってるんちゃう?
でも早いで。
いやいやいや、危ないて。
いやいや、走らんかったらエエねん。
いやいやいや、昨日あんだけ言うてはったんやから、封鎖したあるんちゃう?
辺りを見回すよこみちとmark-na。
見渡すかぎり人はいない。
あ、いや。
大砂走りの標識のさき、稜線のうえに人影が。
そのまま稜線の向こうに消えていく人影。
…警備員じゃなかった、よね?
少なくとも封鎖はされてないみたいだ。
再び顔を見合わせるよこみちとmark-na。
…行っちゃうか。
大丈夫大丈夫。
歩いていったら滑落なんかせぇへんって。
もともと下山道で、たくさんの人が通ってるところなんやから大丈夫やて。
天気も良いし。
よっしゃ、行ってまえーっ。
若干後ろめたい気分を振り切るように、勢い良く大砂走りのほうに進みだすよこみちとmark-na。
靴が砂にめりこむ。
良かった、ビニールテープでぐるぐる巻きにしといて。
これで早く下山できる、という思いと、もし今警備の人とかに呼び止められても、いまさらこんなざらざら崩れる道を登る体力なんかない、という気持ちが重なって、少し急ぎ気味のふたりだった。