最後の手段の最後
前回紹介したるるるの歌のほかにも、我が家で流行しているシャキーンのネタがあって。
おちゃねん。
シュールだ。
先日久しぶりに実家に寄って、富士山に行ったと母に報告したら。
「私もこないだ槍ケ岳行ってきたんよ」
って、富士山より過酷やん!
三十歳ですでに腰がぐちゃぐちゃのよこみちがお送りする、ぐずぐずの富士山紀行録、略して富士録(ロックと発音すると、クレーム殺到)今日も元気にまいりましょう。
建物の前のスペースが、展望台みたいに広くなっている山小屋に到着。
他の山小屋はだいたい、建物の前がマンションの廊下みたいな広さだから、陣取って休憩すると他の登山者が通れない。
だからベンチがすでにいっぱいだと、ろくに休憩も取れないところが多いんだけど。
これだけ広いと、心置きなく休憩できる。
ここが多分、7合目の終わりから、城塞のように見えていたとこやな。
崖側の柵の前にザックをおろしくつろぐ3人の前に、雀くらいの小鳥が。
慣れているのか、人を恐がる気配もない。
手を伸ばせば触れるくらいに近づいてくる。
まぁこんなところで、小鳥に危害を加えようと思う人もそうそういないやろうからね。
頂上まで約120分の看板に、ホンマカイナと心の中でツッコミを入れつつ、再び歩き始めるよこみちたち。
8合目に入ってから、どれくらい登ったんだろう。
行けども行けども8合目から抜け出せない。
細い砂利道を延々と登り続ける。
さすがに口数の減ってきた3人。
相変わらずよこみちが遅れを取って、mark-naとTチャンがしばらく行ったところで少し待ってて。
むぅ、認めたくないがお荷物になってしまったな。
「よこみち、大丈夫か?」
おう!
痛いけどダイジョウブ。
次の休憩で、鎮痛剤を飲んでおこう。
まだ、座薬という最後の切り札もあるし…。
山頂に向かって右、大きくえぐれた沢の底に、白いものが。
雪だ。
ずっと下から見上げてた、あの遠くちっちゃく見えてた雪の残ってるとこまで登ってきたんや。
なぜ溶けてしまわないのか不思議なほど、太陽は照りつけている。
よこみちもまだ半袖のままだし。
小さな山小屋の前は休憩をとる人たちでごったがえし、トイレへ続く狭い通路で休息するよこみちたち。
ロープが張ってあるだけの、石垣の上の狭い通路。
その向こうには、まるでロールスクリーンのような、嘘みたいに透き通った青空。
空中庭園、とか、空中都市みたいな言葉を連想する風景。
しばし見とれていると。
「あの、スミマセン」
あ、ごめんなさい。
トイレに行く人の邪魔になってた。
人が多くて、休憩もできないや。
さっさと行こうか。
あ、ちょっと待って痛み止め飲むから。
ごそごそ。
あ。
薬は取り出しやすいように、ザックのうえのポケットにまとめて入れてたんだけど。
座薬も一緒に。
で、あの座薬ってのはいっけんプラスチックみたいに見えるけど、ラードみたいな材質で体温で溶けるようになってるわけで。
それをザックの表面近く、太陽がよくあたるポケットに入れてたもんだから。
ぶにょぶにょなってるやないかーい!
あかん、中身どろどろやから、開けたらぶちゃって出てもうて使いモンならへんやん。
「指に塗りたくって挿してみたら?
新しい自分が見つかるかも」
絶対イヤや!
最後の手段を、思わぬかたちで失ってしまったよこみち。
無事登りきれるのか?
あるいは、新たな自分を見つけてしまうのか?
つづく!