よこみち珍道中 三峰山編 第6話 ピンピン虫と物足りない山頂 前編
何度も同じことで叱られるイチヒメ。
こりゃ普通に叱ったんじゃ効果薄いな、と思い。
「パパはもう怒るの疲れたから、パパをやめるわ」
と、よそよそしい態度で優しく接すると、叱ったときより大泣きされました。
ただ事じゃないほど平凡。
よこみちです。
さすがに記憶が薄れてきましたが、いまだに昨年11月のことを書き続けています。
よこみち珍道中、三峰山編、第6話です。
オトナが手を伸ばせば、一番上の枝に手が届きそうな低い木々が、すっかり葉を落として静かに立ち並んでいる。
地面は、落ち葉のじゅうたんに覆い隠されて。
木々は、密集することなくある程度の間隔を保って、見通しの良い林を形成している。
しゃくしゃくしゃく。
歩くたび、心地よい音を立てる落ち葉。
厳冬期にはこの低木の枝々に空気中の水分が付着し凍り付き、霧氷に飾られた低木の回廊に変身するわけだ。
うーん、見てみたくはあるけど。
今は葉もすっかり落ちてハダカの木々に、想像の中で霧氷の衣裳を着せながら歩くよこみち。
「そういえば」
と不意に話しはじめるmark-na。
「こないだ、知り合いと山に行った時やねんけど。
こんな落ち葉のとこに、赤黒い水溜まりみたいなんが点々とあって」
ふんふん。
なんやろ?
「よく見たら、ダニみたいに小さい虫が、地面が見えないくらいに密集してて」
うわぁ、気持ちわる。
「その小さい虫が、ピンピン跳ねるみたいに移動するから、ピンピン虫って呼んでたんやけど」
やけど?
「そんとき一緒に行ったうちのひとりが、あやまってそのピンピン虫のかたまりに足を突っ込んでてしもうて」
ぐわあぁぁ。
聞いてるだけでさぶいぼ出るわ。
「大変やったでぇ」
そら、気ィつけなあかんなぁ。
などといいながら進むと、やがて少し開けた場所に出て。
「山頂みたいやね」
mark-naの視線の先に、看板が見える。
看板には、三峰山頂の文字。
おぉ、着いた着いた。
空は一面、厚い雲に覆われて。
北側の展望がひらけているものの、初冬の曇天では景色も今ひとつ、ぐっ、と来ない。
むむむ。
やっぱり霧氷の季節以外は、みどころがあまりないみたいだ。
行程の半分くらいは、下草すらない、ありきたりな杉林だったし。
内心がっかりしながらも、そんなことを口に出すと今日いちにちがまるで台無しになってしまうことぐらいわかっているオトナなふたり。
「よーし、メシにしよう」
いよ、待ってました。
つとめて明るく振る舞うよこみちとmark-naなのであった。
つづく。