よこみち危機一髪

保育所の運動会で、子供の顔を描いた旗が要ると言われて、ホコリをかぶっていた絵の具をひっぱりだしてきたんですが。
その旗ってのが、ウェットティッシュみたいなぺらぺらの不織布(破れにくい障子紙、かな?)で、普通の透明水彩だと滲んでしまう。
ペンのたぐいもだいたい滲んでしまうので、画材の選択肢がかなり限られてくるんです。



で、油絵の具に近い描き味のアクリルガッシュを取り出し、ぺたぺたと描き殴ること3時間。



たぶん要求されてるレベルよりは明らかにオーバークオリティなんでしょうが、自分としてはとても納得のいくレベルじゃないので心苦しい。
もっと細部までこだわって描きたい。
いっそのこともっと手を抜けば良かったか。



画材にアクリルガッシュを選択した時点ですでに空気読めてないとか言わない。
たぶんクレヨンくらいが妥当な画材だとは思います。
ええ、思いますけど!



これは運動会でそうとう浮くんでしょうね。



さてそんなAKY(あえて空気読まない)よこみちが、
「誰ももう読んでへんで」
とか、
「だらだらと、面白んないねん」
とかいった読者の声もAKYでしつこくも書き続ける富士山漂流記(いやいや、漂流はしてないな…)もうすぐ麓です。






じゃく、じゃく、じゃく。


深い霧のなか、ロープ1本を頼りにだだっ広い荒野を歩く。



まるで悪い夢を見ているみたい。



じゃく、じゃく、じゃく。



急に視界が広がる。



あれ?



霧が引いていく。



振り返ると、さっきまでと変わらず富士山がはっきり見える。



そういえばもう見納めで、もう次はいつ見られるか分かんない。
しっかりと目に焼き付けていこう。



再び戻ってくる霧に呑まれ、たちまち見えなくなる富士。



雲海が、ホントに海の波のように打ち寄せては引いていってるだけなんだろうけど、よこみちには、富士が別れを惜しんでくれているように思えた。



また来ます。



そう心のなかでつぶやいて、再び歩きだすよこみち。



じゃく、じゃく、じゃく。



行けども行けども霧のなか。
それもそうか、あんだけだだっ広いいちめんの雲海の中に入ってるんだから。



たった一つの目印、肝心のロープは相当傷んでいて、どうにも心許ない。
ぐっ、と踏んづければちぎれてしまいそう。
どこかで途切れててもまったく不思議はない。



ロープが切れて風に流されたりして崖の方に向かっていたとしても、こんなに深い霧だとかなり近づかないと気付けない。



滑落者が出た、というのが、異様なほどリアルに実感できる。



ま、ゆっくり歩いてれば異状があっても対処できる。
…はず。



じゃく、じゃく、じゃく。


ん?



あれ!?



ちょっと先で、ホンマにロープが途切れてる!



ちょちょちょちょ、シャレにならん。



血の気が引くのがわかる。



うわ、どうしよ。
真っすぐ歩いたらまたロープの続きが見つけれるかな?
でもそこで今たどってきたロープまで見失ったら、これえらいことやで。



どないしたら良い?



顔を見合わせたmark-naの顔が、不意に鮮明に見える。



あ、霧が引いた。



ロープの続きを探そうと、霧の方へ目を凝らすと。



うっすらと人影が。



さっきすれ違って、あと少しだと教えてくれた人だ。
その足元に、かすかにロープの続きが見える。



迷わないように、少し待っててくれはったんや。



人影は無言で霧のなかに消えていった。



ありがとうございます。



また心のなかでつぶやくよこみち。



さぁ、道がわかるうちに早く行こう。



たとえ朽ちかけてても、ロープに沿って歩けるのがすごく心強い。



さっき突然霧が引いたのも、富士が見守ってくれてたんじゃなかろうか、とよこみちは思うのだった。